ぜんぶ嘘

一人恋愛議事録

14.みんなみんな大好きだよ

 常にだれか特定の女と恋人関係になっていないと落ち着かないはずの彼が実際には自分のいいなりになる女なんて、つまらなくてすぐ飽きて捨ててしまうなんて云うもんだから、適当に説き伏せた何回目かのデートのあと、五月にしては眩しすぎる照りつけるような午後の横浜で、横浜でデートした直後はその女と別れることになるんだなんて余計なことを話すから反射的にきつく付き合う意思などないと言い返すと、彼が思った以上に落ち込んだように見えたので胸の奥が軋んで痛くなった。

 彼とはもう会わないかもしれない。私が観たい映画をみて安っぽいラブストーリーだと批判する彼の目はいかにも退屈そうだし、私が気になったショップにもすこしも楽しくなさそうに後をついて回るだけだから。痺れを切らして、疲れているならコーヒーでも飲んで休憩していればと提案すると隣人と立ち話を始めた母親に突然放り出された子どもみたいにうろたえた。自慢のブランドスーツを着て夜に出会う彼からは想像しがたい様子に、早く日が暮れてくれるように祈った。

 

 彼は多分わたしの内面なんかには少しも興味がないだろう。たまたま私の形が彼の好みだったから執着しているだけだろう。彼は私のしょうもない内面を見抜いていて、きみのような女にはうんざりしているんだとかそういう感想を述べた。私がこんなしょうもない男に構うのは、つっつけば何かとんでもないものが出てくるかもしれないという知的好奇心からだ。

 でも彼の内面はどうしようもなく空虚で、それでいて自分のことにしか興味がない。だから彼が期待したとおり、彼の意にそぐわないクソ女のままでいて少しも媚びることなく、勝手にうんざりされて彼がほんとうに望んでいる女の子のもとへ返そうと思う。いや、返ってほしいと思っている。

 

 人は適材適所なのだ。美女とセックスしたいという願いが叶わないうちは、そいつは美女とセックスに足らない人間なのだ。私は誰か一人と愛し合ってそれだけが理由で幸せに暮らすことに足らない人間だった。じゃあ何が私の適所なのかといえば、今は数人の男子とローテーションしたりしなかったりして会って遊んでセックスしたりしている。

 これが面白いほどうまくいくので、散々私を苦しめてきた女ったらしたちをバカにできない。私がこれまでにいくら上野千鶴子に感化されウーマンリブとかフェミニズムにかぶれようとも、行動は保守的で古臭い男尊女卑の型に自ら嵌まっていただけであることを知る。私は過去のだらしない男たちと恋人ではなく同志でいるべきだったのだ。もう二度と出会うことのない彼らは、多分今の私を好きだと言ってくれるだろう。確かめようのないことだが、そうやって過去の苦しみを少しずつ美化していくことで、私は着実に自由を獲得するのだ。